南條史生さんの発言がささりまくった、今とこれからの地方と美術、美術館の話

コロナ禍になって、美術館に行けなくなったし美術展にも触れられなくなった。しかし一方でこれまで現地参加しかできなかった講座が、オンラインで聴けるようになった。これは地方難民にとって本当にめちゃくちゃうれしい。弘前れんが倉庫美術館に関連して南條さんが話すというので、てっきり美術館のうまい作り方的な話かなと思ったら、芯に、信に、真に迫る話で、もううなずきしかなかった。

聞きながら書き留めたので後で繰り返していいように私の頭の中で発言を解釈して脚色したところもある前提で残しておく。

 

Q 弘前れんが倉庫美術館について

アーティストに来てもらって、街で作品を作ってもらって、それを美術館が買って市民に見せる。そのようにして始めた。

美術館は明治期の洋風の歴史的建物で、もともとはシードル工場である。歴史を持つ建物の中で作品と空間の対話が生まれるのか。一般的に芸術祭はある限定された空間に展示されている。ホワイトキューブではない場所での展示である。美術をそれほど知らない普通の人も、美術館ではない場所での展示になれてきている。

美の殿堂であったものが、人の近くになってきたということは、それだけ美術館の役割も変わってきたのだ。「中の人」もふるまいを求められる。変わらなくてはいけない。

フィールドワークは作家作品のレベルが出るもの。作品を購入する前提だからか、作家が作る作品のレベルが高い。

ナウィン・ラワンチャイクン/Navin Rawanchaikulはフィールドワークをしている。あいトリでもしている。大きい壁に壁画を描くのが特徴の作家である。ここに住む人たちは、知っている人たちの顔が壁にあり、知っているモチーフが描かれている。つまり作家と町とのコミュニケーションが現れる。現代美術でないとできないことだ。彼と作品はコミュニティと対話する能力を持っている。非常に重要な役割である。他の町へ持っていっても意味がない作品であり、ここにあるから価値がある。

ナウィン・ラワンチャイクンについて

○第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ ナウィン・ラワンチャイクン(タイ) インタビュー ARTiTより
https://www.art-it.asia/u/admin_ed_feature/8pltw5xcluniy2rfudej

○ドキュメント・越後妻有:ナウィン・ラワンチャイクンがみた限界集落
https://grant-fellowship-db.jfac.jp/ja/grant/pp1505/

〈省略〉
美術館もそうであるべきだ。倉庫が美術館になり、教育の場になる。収蔵庫でもあり展示会場、クリエイティブハブ、ワークショップが行われる、コミュニティのハブ(地域の人たちが集まる)ができたとき、未来の人が現れる。

Q  れんが美術館はPFI方式で決まった。PFIゆえのメリットデメリットについて

PFI が 美術館運営に入ってきた。行政に民間の血を入れる、先駆的事例である。弘前市がれんが美術館の構想を考え出したときに、「美術館のことなら」と南條氏に声を掛けた。考え方を聞いて「それなら私たちも応募してみよう」と南條氏側から応募した。

行政から見るといいことに見える。「提案してきた、応募してきた」という中からひとつ選べば、管理運営しなくていいわけだ。しかし参加側はチームの中の温度差が違うので足並みをそろえるのが難しい問題があった。
参画してくれた建設会社は倉庫をリフォームしたら仕事は終わり。だからPFIが美術館運営に向いているのかが疑問が残る。建てた人たちが最初にお金を持っていってしまう。

Q 建築家・田根さんに何を期待して依頼したのか?

使い勝手を考えて作った美術館が少ない。これは施主の問題である。施主とは県や市のこと。しかも施主はプロではなくたまたまの役人である。細かな指示はできない。細かく言えるように館長やキュレータを早く決めて、発言権を作るほうがいい。建物もできシステムができてから、館長を決めるというのが日本の美術館。天下りもいる。

県や市にどういう美術館にしたいのか、という強い意志がない。だからこそ建築家は思い通りにすればいいだけ。エレベーターの大きさ、搬入のこと、そんなことは建築家は考えないし知らないので、どうでもよいものを作る。

田根さんは若い建築家だ。エストニア国立博物館を26歳で任された人だ。若い時に世界に出て作品を作った、旬の建築家だ。なぜ選んだのか、それはれんがを修復して作る経験が日本にはないから。しかしヨーロッパは多い。旧い建物をうまく改修して使っている。その現場を田根さんは見ているし、できるだろう。だから田根さんに期待と依頼をした。

Q 自治体、行政が美術館を作ること、建てることについて

普遍的な美術館はない。この時代、この時期にどんな美術館を作るのか。話し合いが必要だ。

自治体は建築家に一般論で依頼しないことだ。自治体は施主として建築家にやりとりができること、それが大事。それがなければ漠然とした美術館はになってしまう。個別の理由、要件をしっかりと決めて自治体が建築家に依頼すること。つまり依頼側が明確なビジョンを持つこと。そして、自治体も建築家側もアイデアもってコミュニケーションをすること。

Q なぜ、弘前市はこのような美術館を建てることができたのか?
私の町なら道の駅やスーパー銭湯してほしいなど言われそう。弘前市民は文化度が高いのか?

美術のために美術がある。「美術を鑑賞したい」という人たちのために守らなければいけないものがある。よく「市民が美術館を使いたいから」と声もあるが、それは多目的ホール化するだけ。確かにそういう「市民が使う時間」があってもいいが、正直使いたい声は「特定の限られた市民のためのもの」というだけだ。素晴らしい芸術を広く見たいという方が圧倒的に多いだろう。そのための美術と美術館とは何か。判断して線を引くことも大事だ。

判断して線を引く。線=ラインのありかたは、街と時代のあいだで変化する。不特定でもなく、ひとりの声を大切にしながら公益性を持てるかどうか。

そして説明するだけの言語能力をもつこと。話し合うことの伝統を育んでこなかった日本の教育が重い。匿名性の高い市民の声が勝ってしまう。

Q 場所時間にとらわれないオンラインと、リアルな美術館の関係はどうなるか?

バーチャルとリアルという二元論ではなく、その中間ができ、多層的になるのでないか。例として「九段ハウス」(https://kudan.house/)のサロンというものがある。お金払う人は質問ができ、YouTubeは無料だが質問ができない。リアルとオンラインとの差はある。

Q 展覧会の作品について

展覧会を記録するのは3Dにある時代になる。限りなく現実に近い。若い人はもっと身近に感じているはずだ。ゲームをやっている人には想像は簡単なことだろう。

Q 青森県には公立美術館が5館ある。連携は?

ACAC(国際芸術センター青森 http://www.acac-aomori.jp/)がある。アーティストインレジデンスもある。青森県内には5つの美術館があって、どれも建築家が作っている。それだけで建築を見るツアーができるのだ。次は、つなぐ交通を掴むこと。アートの美しさと自然の美しさを楽しめる青森がある。いろんなタイプのツアーが作れるだろう。

Q 観光においての美術館の役割とは?

どれだけ街の魅力を高めるか。文化的なツールになる。それがシティセールスになる。演劇も音楽も夜しか稼働しないが、美術館のは常時空いている空間だ。人を受け入れる施設であり、それは重要な役割である。常時空いていれば、経済も動く、ゆとりを持つことができる。

日本の多くの美術館は収蔵品をみせるのではなく「遠くから来てくれるような作品を展示できているかどうか」を考えてほしい。遠くからも近くからもわざわざ修学旅行生が見に来る、というように。ちゃんと選んで収蔵品を見せられているのか、キュレーターが考えるべき仕事だ。
MOMAはそのようにやっている。役割が近代から現代へ、地方ではもっと大きくなってきている。

最後に

美術館は変化の時代。テクノロジー、コロナ、どう生きるのか。アートは糧になる。ものを考えるだけのプラットフォームになるのだ。

 

■プロジェクトミーティング【オンライン版】
「美術館のいま(5)~弘前れんが倉庫美術館~」
日時:9月8日[火]19:30─21:00
ゲスト:南條史生(弘前れんが倉庫美術館特別館長補佐)
カフェマスター:木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創部門准教授)

ラボカフェとは?

「ラボカフェ」は、京阪中之島線”なにわ橋駅”構内のコミュニティースペース「アート エリアB1」で、大阪大学が開催しているレクチャー&対話イベント。大阪大学の教員らがカフェマスターとなり、平日夜を中心に、哲学、アート、科学技術、 鉄道、マンガ、スポーツなど、多岐にわたるテーマで、ゲストや参加者のみなさんで語り合うカフェプログラムを提供しています。http://artarea-b1.jp/event/labcafe/

アートエリアB1とは? http://artarea-b1.jp/

京阪電車中之島線建設中の2006年から、企業・大学・NPO法人が協同して、都市空 間における駅の可能性を模索する「中之島コミュニケーションカフェ」を実施。これを継承して2008年10月19日の開業を機に、なにわ橋駅の地下1階コ ンコースに「アートエリアB1」を開設しています。ここでは様々なプログラムを実施し「文化・芸術・知の創造と交流の場」を目指しています。

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